自宅の火災を通じて、不思議な御利益の数々を実感 Part. 2

倉敷・妙照寺 本郷美紀子さん

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私たちが一旦引き上げたあと、お寺のお導師様ご夫妻と局長さん、そして帯江組の光本さんの4人がテレビのニュースを見て駆けつけてくださいました。不思議なことに御戒壇もまったく焼けていなかったようで、中の御本尊と御尊像を助け出してくださり、お寺にしばらく御安置していただけるとのこと。御宝前のことはすごく心配していたので、本当に有難く、感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。と同時に、こんなにたくさんの方たちを巻き込んで大騒ぎを起こし、私はなんてことをしたんだろうと胸が痛くもなりました。夫は、

「いい、いい、大丈夫だ。」

と言ってくれたのですが、夫は自分の持ち物のほとんどを焼失していました。焼け残ったのは、ピアノの部屋と仏様がいらっしゃった母の寝室のみ。ピアノの部屋のエアコンはドロドロに溶けて焼け落ちていたのに、その下にあったピアノのカバーは焼けていませんでした。譜面台の上にのせていた一枚の楽譜もそのまま残っていました。みんなが

「本郷さんの念がこもっていたんじゃないの?」

とか

「バリヤーが張られていたんじゃない?」

などと言ってくれましたが、私には分かっていました、仏様が守ってくださったんだと。そして、私のピアノの音色が好きだった父が守ってくれたんだと。やはり、

「ピアノは続けなければ……」

と、その時に思いました。

そうと決めたらクヨクヨ落ち込んでいる場合ではありません。なぜならば、三月、四月、五月と、立て続けにコンサートの予定が入っていたのです。しかも、どれも私が主宰か、あるいは団体の代表になっているものばかりでした。ぼやぼやしている暇はありませんでした。

私はこれ以上みんなに心配や迷惑はかけられないと思い、とにかく動き回りました。近くに住んでいる夫の弟の家と、長男家族の家に居候させてもらいながら、いつもの仕事とコンサートの準備、練習、そして母のお見舞い……私にとっての休憩場所は、大学病院の待合室や食堂でした。とてもきれいで、とてもくつろぐことができました。

それでも、夫も私も居候の立場に疲れ始めていました。ちょうどその頃、焼失した我が家の斜め向かいにある賃貸マンションに、一時的に入居できるようになったのです。やっと夫と二人、心から落ち着ける空間に収まることができました。入居の日は、引っ越しの荷物も何もありませんでしたから、火事の直後、息子が家にあったと言って持ってきてくれたバッグ一つのみ。なんだかとても可笑しかったのを覚えています。

部屋はマンションの八階。こんな高いところに住むのは初めてでした。若いころはタワーマンションの最上階に住みたいなどと憧れていましたが、この年齢になると、眺めはいいとは思えるけどちょっと足がムズムズするものです。それに、下を覗くと否が応でも焼け残った、中が真っ黒の我が家が目に飛び込んできます。早く崩してしまって欲しいと思っていましたが、真備町の水害の復興作業のために、業者さんの手が空かなかったのです。

「そりゃそうだ。仕方がない……」

そう思いながらも、私は自分でできる限りのことを始めることにしました。まだ寒かったですし、風の強い日もあったりしたので、外に放り出されているずぶ濡れの布団から飛び出した綿や、ガラスの破片、樋の鉄板の破片、真っ黒の灰などが、周りの家の敷地へ飛んで入り込んだり、人に当たったりしたら大変なので、できるだけ自分で片づけることにしたのです。毎日、長靴をはいて、ジャンパーを着て、ゴム手袋をはめて……。

ピアノの部屋もせっかく残ってくれたのだから、少しでも持ち出さなければと思い、二階にも上がりました。階段は焼け落ちて使えなかったので、梯子をかけて窓から入りました。休みの日には消防士である婿も来てくれて、いろいろ誘導してくれたり、楽譜を詰めた重たい段ボールを手際よくロープを使って下に降ろしてくれました。市役所に勤めている息子や、役場に勤めている夫の弟は事務上の厄介な手続きなどを教えてくれました。看護師である息子の嫁は、勤めている病院で焼失した薬の手配をしてくれた。次男が勤めているアパレル会社からは、夫と私用の服が段ボールで送られてきました。有難い……本当にみんなにはお世話になりました。

こんな風に動きまわっている間、夫も私も風邪一つひかず、おなかが痛くなることもなく、重たい段ボールを持ち上げても腰を痛めることもなく、毎日元気に身体を動かすことができました。「火事場の馬鹿力」はしばらく続くんだなと……。これも仏様のお計らいだと感じました。

私は仕事の一つとして、岡山少年院に非常勤講師として勤めています。犯罪を犯した少年たちの更生保護施設であるその少年院には、現在五十人ほどが入院しています。そこで情操教育として、美術・書道・音楽の授業があり、私は音楽を担当していていつも少年たちと歌っています。もちろん、若者の歌を中心にです。火災の二週間後、いつもの通り少年たちの前に立つと、火事の事は新聞で見て知っていたようで、

「先生、大丈夫ですか?」

とみんなが声をかけてくれました。ああ、なんて優しい子たちなんだろう……。

先日参詣させていただいたお助行の席で、良説師から「誰の心の中にもちゃんと仏様がいらっしゃるのだ」というお釈迦様の教えをお聞きしたとき、思わず少年たちのことを考えました。本当にその通りだと思いました。命が助かっただけでも有難い。物はなくなってしまったけれど、家族、友人、近所の方々がいてくれたおかげで今もこうして生きていられる。

「まず、身近な人を大切にしようね。」

と少年たちに話したら、皆うなづいてくれた。この子たちには、退所後幸せな人生を送ってほしいと心から願っています。

コンサートなども無事に終わり、十月に入り、岡山市の大元駅近くの中古マンションに落ち着くことができました。こぢんまりとして小綺麗でとても快適な住まい。同時に夫の実家のそばにも古民家を見つけ、そこも手に入れることができました。夫は納屋を音楽ホールにリノベーションしてくれて、焼け残ってメンテナンスから無事に帰ってきたピアノをそこへ入れてくれました。床も壁も杉の木張りで、天井は高く梁が見えている状態。戻ってきても煙のにおいだけはなかなか消えなかった私のピアノでしたが、杉の木が全部吸い取ってくれたのか、全く臭わなくなっていました。

ところで、母はというと気道熱傷を克服し、ある施設に入居したのですが、そこは母にとってあまり適した場所ではなかったようでした。母の性格を考えて、アットホームな雰囲気のグループホームを希望して、いくつか申し込みをしていたのですが、なかなか空きがでませんでした。そうこうしているうちに、入居していた施設で転倒し大腿骨を骨折して再び入院。手術を受けることになり、これで寝たきりかと覚悟しましたが、これもまた見事に克服し、頑張ってリハビリを続けていました。十二月、毎年お寺の大掃除に参加したいと思いながらも、いつもピアノ教室のクリスマス会と重なっていたのですが、昨年は運よく一週間ずれたので大掃除と餅つきに参加させていただくことができました。その二日後、最も希望していたグループホームから「入居できます」との連絡が入ったのです。またご利益をいただいたなあと実感しました。本当に有難いことです。

希望していた施設に入居できてから、母にも笑顔が戻ってきました。そのおかげで、私の心もようやく軽くなったようでした。

年が明けて、池本良説師が手配してくださった新しい御戒壇が我が家にやってきました。そして二月の初め、お寺で御安置していただいていた両親の御本尊と御尊像をご遷座していただきました。あれからちょうど丸一年……ようやく全てが復活しました。新しい御戒壇の前で南無妙法蓮華経…とお唱えしていると、自然と涙が溢れてきました。涙腺もやっと開通し直してくれたのかもしれません。実は、火災から四か月が経った頃、あるテノール歌手のコンサートを聴いて初めて涙が出たのですが、その後また出なくなっていたのです。仏様をお迎えして、やっと気持ちが落ち着いてきたのだと思います。

ただ一つ悔やまれてならないことがあります。それは、愛犬ココを助けてあげられなかったことです。あの日もいつものように我々の寝室の隣の部屋(元々、ココを可愛がっていた息子の部屋)でココは寝ていました。よく吠える犬だったのですが、あの時は階下で異変が起こっていても全く吠えることがありませんでした。小さかったので、少量の煙でもやられてしまったのだろうとのこと。焼けずに静かに横たわっていました。動物はお葬式などあげないと聞いたことがありますが、ペットピアというところでお葬式をしてあげました。子供たち、孫たち全員が来てくれました。可哀そうなことをしたという気持ちは、今でも引きずっています。

一年経って、ようやく頭の中も心の中も整理がついてきたので、この度ご利益談を書かせていただきました。火災というとんでもない事態を引き起こしたにもかかわらず、その後スムーズに事が運び、今は以前よりも生活そのものがかえって楽になりました。これは、私の祖父母・両親が熱心な本門佛立宗の信者であり、一生懸命これまで功徳を積んできたおかげだと思います。

最後になりましたが、ご信者の皆さまにはたくさんのお心遣い、お見舞いをいただき、本当にありがとうございました。大切に使わせていただきました。これからは、子供たちや孫たちのためにもできる限りのご奉公をさせていただこうと思っています。それから、音楽も人の心に寄り添い、心を癒し、元気を与えてくれるものなので、こちらも続けていこうと思います。ありがとうございました。

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